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病理診断から創薬まで!ヘルスケア領域で活躍するAI 5選(海外事例)

作成者: SREホールディングス / 山下祥吾|2024/12/04 1:15:00

はじめに:AIが変革するヘルスケア業界

医療費の増大、医師不足、新薬開発の長期化…。ヘルスケア業界は、世界中で様々な課題に直面しています。これらの課題を解決する鍵として、近年注目を集めているのがAI(人工知能)です。AIは、医療現場の効率化、診断精度の向上、新薬開発の加速など、ヘルスケア領域に革新的な変化をもたらす可能性を秘めています。

特に、医療データの解析、画像診断、創薬、個別化医療、遠隔医療といった分野において、AIの活用は目覚ましい成果を上げています。膨大な医療データをAIが学習し、人間には発見できないようなパターンや相関関係を見出すことで、より正確な診断や効果的な治療法の開発が可能になるのです。

そして、AIによるヘルスケア革新の波は、日本国内にとどまりません。世界各国で、AIを活用した革新的な医療サービスが次々と生まれています。今回は、海外で注目を集めているAI活用事例を5つご紹介し、AIがヘルスケア業界の未来をどのように形作っていくのかを探っていきます。

本記事では、病理診断支援、創薬、遠隔医療プラットフォーム、ポータブル超音波診断、がんゲノム解析といった多岐にわたる分野におけるAI活用事例を取り上げます。これらの事例を通して、AIがヘルスケア業界にもたらす可能性、そして、皆さまのビジネスにとってどのようなチャンスがあるのかを理解する一助となれば幸いです。

病理診断支援:PathAI

医療現場におけるAI活用で特に注目されている分野の一つが病理診断支援です。膨大な病理画像を解析し、異常を発見する病理診断は、医師の高度な専門知識と多大な労力を必要とするため、AI技術を用いた効率化と精度向上が求められています。この分野の代表的企業であるPathAIは、米国を拠点に、AIを活用した病理画像解析技術を提供しています。

PathAIが開発したAIアルゴリズムは、15億以上のアノテーションを含む病理画像データセットを学習しており、高精度な病理画像解析を実現しています。この技術は、がん診断の効率化に寄与するだけでなく、臨床試験や治療効果の評価にも活用されています。PathAIの製品には、腫瘍細胞率を自動評価して次世代シーケンシング(NGS)の準備を支援する「AIM-TC」などがあります。

同社の技術は、乳がんや非小細胞肺がん、結腸直腸がんなど多様ながん種の診断を支援しており、医師が迅速かつ正確な診断を下すための強力なツールとして機能します。これにより、医療現場での作業負担を軽減し、患者への適切な治療方針の決定をサポートしています。

PathAIは、診断の精度向上や効率化だけでなく、人間の目では捉えきれない微細な病変の検出も可能にしています。この特長により、早期がんの発見や再発リスクの予測など、より高度な医療の実現が期待されています。一方で、AI技術の透明性向上や学習データの偏り解消といった課題に取り組む必要もあります。

PathAIをはじめとするAI病理診断支援システムは、医療現場の課題解決に大きく寄与しており、今後の技術進化によりさらに幅広い活用が見込まれます。

創薬:Atomwise

新薬の開発は、膨大な時間と費用を要する、非常に困難なプロセスです。何千、何万もの化合物の中から、効果があり安全な薬の候補を見つけるには、莫大な研究開発費と長い年月が必要です。この創薬プロセスを劇的に効率化するために、AIの活用が進んでおり、その革新をリードしている企業の一つが、米国に拠点を置くAtomwiseです。

Atomwiseは、独自のAIプラットフォーム「AtomNet®」を活用し、新薬候補化合物を迅速かつ正確にスクリーニングします。従来の創薬プロセスでは、研究者が化合物を一つずつ評価していく必要がありましたが、AtomwiseのAIは、数百万の化合物データから標的タンパク質に結合する可能性が高いものを効率的に選別することが可能です。

AtomNet®は、化合物の化学構造と標的タンパク質の3D構造情報を解析し、それらの結合親和性を予測することで、実験を行う前に有望な候補を特定します。これにより、創薬プロセスの初期段階における膨大な時間とコストを削減するだけでなく、成功率の向上にも寄与しています。

同社はこれまでに、エボラ出血熱やがん、希少疾患を含む多岐にわたる研究プロジェクトで成果を上げてきました。例えば、難治性疾患の治療薬開発において、AtomwiseのAIは、新たな薬剤候補の発見を加速させ、製薬会社や研究機関と協力して次世代の医療を推進しています。

AtomwiseのAI創薬プラットフォームは、創薬スピードとコスト削減だけでなく、従来では発見が難しかった新たな薬剤候補を提示する能力を持っています。この革新により、これまで治療が困難だった疾患にも対応可能な画期的な新薬の開発が期待されています。

もちろん、AI創薬には克服すべき課題も存在します。AIモデルのさらなる精度向上や、AIが提案した化合物の安全性を実証するための臨床試験など、継続的な研究開発が必要です。しかし、AI技術とデータ蓄積の進展に伴い、AIは創薬プロセスにおける不可欠なツールとなっていくでしょう。Atomwiseのような企業は、医薬品開発の未来を切り拓く重要な存在です。

遠隔医療プラットフォーム:Amwell

スマートフォンやタブレット端末の普及により、医療の形態が大きく変化しています。その中でも、オンラインで医師の診察を受けられる遠隔医療プラットフォームが注目されています。このサービスは、地理的制約を受けずに医療を提供できるため、医療アクセスが限られている地域に住む人々や、多忙なビジネスパーソンにとって非常に便利です。この分野でリーダー的な役割を果たしている企業の一つが、米国拠点のAmwellです。

Amwellは、患者、医師、医療機関を繋ぐ総合的な遠隔医療プラットフォームを提供しています。その特徴は、Amwell Converge™という革新的なプラットフォームを通じて、ライブビデオ診療、緊急治療、慢性疾患管理、精神科診療など、多岐にわたる医療サービスを提供する点です。患者はモバイルアプリやウェブサイトを利用して、いつでも医師の診察を予約することができます。

また、AmwellのプラットフォームはAIを活用し、患者の症状をトリアージ(重症度分類)して適切な専門医に繋ぐ機能や、医療データの統合を可能にする電子カルテ(EHR)との連携を備えています。この技術により、医療提供者間でスムーズな情報共有が実現し、診断の精度向上や効率的な治療が可能になります。

さらに、Amwellは病院や医療機関とも提携し、遠隔医療プラットフォームの導入支援を行っています。遠隔医療の利用は、パンデミックの影響で急増し、その需要は現在も高まっています。医療アクセスを向上させるだけでなく、患者の待ち時間短縮や医療スタッフの負担軽減など、医療機関の業務効率化にも貢献しています。

一方で、遠隔医療には、対面診療のような身体診察が難しいという課題もあります。しかし、通信技術の進歩やAIの発展により、これらの課題は着実に克服されつつあります。Amwellのような先進的な企業の取り組みは、遠隔医療の未来を切り拓き、より多くの人々に質の高い医療サービスを届ける基盤を築いています。

ポータブル超音波診断装置:Butterfly Network

医療機器の進化は、AI技術の導入により大きな加速を見せています。これまで大型で高価だった超音波診断装置が、AIの力を借りて小型化と低価格化を実現し、医療現場へのアクセス性を大きく向上させています。その代表的な事例が、米国発のButterfly Networkによって開発されたポータブル超音波診断装置です。

Butterfly Networkは、スマートフォンやタブレットに接続して使用できる小型で低価格の超音波診断装置「Butterfly iQ」を開発しました。従来の超音波診断装置では、用途に応じて複数のプローブを使用する必要がありましたが、Butterfly iQは、独自の超音波チップ技術により、単一のプローブで全身の様々な部位をスキャンできるのが特徴です。

さらに、Butterfly iQにはAIを活用した画像解析機能が搭載されており、リアルタイムで超音波画像を解析して医師の診断をサポートします。例えば、心臓の検査ではAIが心拍数や弁の動きを自動的に測定し、異常の有無を医師に通知します。この機能により、診断精度が向上し、診断にかかる時間も短縮されます。

Butterfly iQの最大のメリットはその携帯性と低価格性です。小型で軽量なため、救急現場や災害現場、または医療資源が限られた地域でも活用可能です。また、従来の超音波診断装置に比べて大幅に安価であるため、より多くの医療機関で導入が進んでいます。

特に発展途上国など、医療アクセスが限られた地域では、医師不足や医療機器の不足が深刻な問題となっていますが、Butterfly iQのようなポータブルで安価な超音波診断装置は、これらの地域における医療アクセス向上に貢献することが期待されています。

Butterfly Networkは、SPAC(特別買収目的会社)であるLongview Acquisition Corp. IIとの合併を経て、NASDAQに上場し、今後さらなる研究開発投資と事業拡大を進めていく予定です。AI搭載のポータブル超音波診断装置は、医療の未来を変革する可能性を秘めていると言えるでしょう。

がんゲノム解析:Tempus

がん治療において、個別化医療の重要性はますます高まっています。がんは遺伝子の変異によって引き起こされ、その変異は患者ごとに異なります。そのため、同じ種類のがんでも、患者によって最適な治療法が異なる場合があります。個別化医療を実現するために、AIを活用したがんゲノム解析が注目されており、この分野で先進的な取り組みを行っているのが、米国のTempusです。

Tempusは、がん患者の腫瘍サンプルを用いて、遺伝子解析を行い、AIを駆使して個別化医療を提供しています。患者から提供された腫瘍サンプルは、次世代シーケンサーによって網羅的に解析され、AIが膨大な遺伝子データをもとに、がんの発生や進行に関わる遺伝子変異を特定します。この情報を基に、患者に最適な治療法を提案し、治療方針の決定をサポートします。

TempusのAI技術は、遺伝子データベースと臨床データに基づいて学習されており、精度高く遺伝子変異を特定し、最適な治療法を予測します。これにより、医師はより確実に治療方針を決定でき、患者の生存率向上が期待されます。

Tempusのサービスは、個別化医療の実現にとどまらず、創薬研究にも貢献しています。蓄積したがんゲノムデータは、新しい抗がん剤の開発や既存薬の効果向上に活用され、がん治療の進展を支えています。

また、TempusのAIを活用したゲノム解析は、がんの早期発見や再発リスクの予測にも貢献しており、予防や早期治療を可能にすることで、患者のQOL(Quality of Life)の向上にも寄与しています。

もちろん、がんゲノム解析にはコストや倫理的課題も存在しますが、技術革新とコストの低減、そして倫理的議論の進展とともに、AIを活用したがんゲノム解析は、がん治療の未来を大きく変える可能性を秘めています。Tempusのような企業の取り組みは、がん患者にとってより良い未来を切り開く希望となるでしょう。

まとめ:AIはヘルスケア業界の未来をどのように形作るのか?

ここまで、PathAIの病理診断支援、AtomwiseのAI創薬、Amwellの遠隔医療プラットフォーム、Butterfly Networkのポータブル超音波診断装置、そしてTempusのがんゲノム解析と、ヘルスケア領域におけるAIの革新的な活用事例を5つご紹介しました。これらの事例は、AIが医療現場の効率化、診断精度の向上、新薬開発の加速、個別化医療の実現、医療アクセスの向上など、ヘルスケア業界の様々な課題を解決する力を持っていることを示しています。

AIは、もはやSFの世界の話ではなく、現実の医療現場で活用され、成果を上げているのです。そして、AI技術の進歩は日進月歩であり、今後ますますヘルスケア領域での活用が拡大していくことは間違いありません。

これらの変化は、医療従事者だけでなく、ヘルスケア業界に関わるすべてのビジネスパーソンにとって大きなチャンスとなります。AIを活用した新しい医療サービスの開発、既存の医療サービスの効率化、医療データの活用による新たなビジネスモデルの創出など、AIはヘルスケア業界に無限の可能性をもたらします。