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DX戦略を練るための10のビジネスフレームワーク

作成者: SREホールディングス / 山下祥吾|2024/09/20 1:30:00

はじめに

デジタルトランスフォーメーション(DX)は、現代のビジネス環境において不可欠な要素となり、企業が競争力を維持し、進化するための基盤となっています。しかし、DXは単にテクノロジーを導入するだけではなく、組織の戦略、プロセス、文化、そして人々の行動を変革する広範で複雑な取り組みです。それゆえ、効果的なDX戦略を策定し、実行するためには、明確なフレームワークが必要となります。

フレームワークは、一見混沌とした問題や課題を構造的に理解し、取り組むための方法論を提供します。そのため、DX戦略を考える際には、異なる視点や要素を総合的に捉えることができるフレームワークを使用することが、戦略の成功に繋がります。

本記事では、DX戦略を策定する際に参考にできる10のフレームワークを紹介します。それぞれのフレームワークは異なる観点を提供し、企業の特性や状況により適したものを選択することが重要です。また、複数のフレームワークを組み合わせて使用することで、より深い洞察や独自の戦略を生み出すことが可能になります。

フレームワーク1:McKinsey 7S Framework

デジタルトランスフォーメーションは単に技術的な側面だけでなく、組織全体に関わる変革です。そのため、組織全体を見渡すためのフレームワークが必要となります。ここで役立つのが、McKinsey 7Sフレームワークです。

このフレームワークは、組織を理解し、変革を促進するための有力なツールで、7つの主要な要素(戦略、構造、システム、共有価値、スキル、スタイル、スタッフ)を考慮に入れます。これらの7つの要素は相互に関連しており、一つの要素に変化が起こると、他の要素にも影響を及ぼします。

DX戦略を策定する際には、これらの要素全てを考慮に入れ、それぞれがどのようにデジタル変革に関与するのかを理解することが重要です。例えば、新たなデジタル戦略(戦略)を立案する場合、それを実現するための組織構造(構造)やスキル(スキル)、さらにはそれをサポートするシステム(システム)の必要性を考慮しなければなりません。

また、デジタル化が組織の文化(共有価値)やリーダーシップのスタイル(スタイル)に与える影響、そしてそれがスタッフ(スタッフ)の行動や思考にどのように反映するのかを理解することも、効果的なデジタルトランスフォーメーションを達成するためには不可欠です。

McKinsey 7Sフレームワークは、組織の現状を理解し、DX戦略が全体として組織にどのような影響を及ぼすかを見極めるための強力なツールとなります。

フレームワーク2:デジタルマチュリティモデル

デジタルマチュリティモデルは、企業がデジタルトランスフォーメーションを進める際に、その真直度を評価するための有用なフレームワークです。一般的に、デジタルマチュリティモデルは、初期段階から先進的なレベルまで、組織のデジタル化の進行度を示すいくつかの段階を定義します。

各段階では、テクノロジーの採用、デジタルスキル、プロセスのデジタル化、データの利用、カルチャーの変革など、DXの様々な側面が考慮されます。企業は、このモデルを使って自己評価を行い、現在どの段階に位置しているかを把握することができます。そして、次の段階へ進むために何が必要か、どの側面を強化すべきかを見極めることが可能となります。

例えば、企業がデジタルマチュリティの初期段階にいると判断した場合、次の段階へ進むためには、より洗練されたデジタルスキルの習得、新たなテクノロジーの採用、データドリブンの意思決定の導入などを検討する必要があります。

デジタルマチュリティモデルを使うことで、企業は自己評価を行い、自社の現状を正確に把握することができます。そして、DX戦略の進行を計画的かつ段階的に進め、自社の目標とリソースに合った適切な戦略を策定するための指針を得ることができます。

フレームワーク3:ADKARモデル

デジタルトランスフォーメーションは、組織全体の変革を伴いますが、その成功は最終的には個々の従業員の行動と変化に依存しています。ADKARモデルは、個々の従業員が変革を理解し、受け入れ、その一部になるプロセスを促進するための実用的なフレームワークです。

ADKARは以下の5つの要素から成り立っています:「Awareness(認識)」、「Desire(意欲)」、「Knowledge(知識)」、「Ability(能力)」、「Reinforcement(強化)」。このモデルは、変革の各ステップにおいて必要な要素を明示し、個々の従業員が変革を受け入れるための道筋を示します。

例えば、新しいデジタルツールを導入する際、従業員はその必要性と利点(認識)を理解し、その変更を望む意欲(意欲)を持つ必要があります。次に、そのツールの使用方法を学ぶ(知識)とともに、それを効果的に使用する能力(能力)を身につけます。最後に、新しい行動が強化され、常態化する(強化)。

デジタルトランスフォーメーションを成功させるためには、技術的な側面だけでなく、人間的な側面も考慮することが不可欠です。ADKARモデルは、従業員の行動と意識の変革を促進し、変革を組織全体に浸透させるための枠組みを提供します。

フレームワーク4:Gartner's Digital Business Transformation Framework

Gartnerのデジタルビジネストランスフォーメーションフレームワークは、企業がデジタルトランスフォーメーションを適切に計画し、実行するための包括的なガイドとなります。このフレームワークは、デジタルビジネスの主要な側面を5つの領域に分けて考察します。それらは「ビジョンと戦略」、「人々と文化」、「プロセスとガバナンス」、「テクノロジーと能力」、「結果とパフォーマンス」です。

  1. ビジョンと戦略
    • デジタルトランスフォーメーションを達成するための明確なビジョンと戦略が必要です。これは、企業のデジタルイニシアチブがビジネスの目標と一致し、全体的なビジネス戦略をサポートすることを確認するためのものです。
  2. 人々と文化
    • デジタル文化の育成とデジタルスキルの開発は、デジタルトランスフォーメーションの成功に不可欠です。従業員が新しいデジタルツールを受け入れ、それらを効果的に使用するためには、適切なトレーニングとサポートが必要です。
  3. プロセスとガバナンス
    • 効率的なデジタルプロセスと適切なガバナンス構造が必要です。これには、デジタルイニシアチブの優先順位付け、リソースの割り当て、リスク管理のためのポリシーと手順が含まれます。
  4. テクノロジーと能力
    • 最新のデジタルテクノロジーの選択と採用、およびそれらを効果的に使用するための内部能力の構築が求められます。
  5. 結果とパフォーマンス
    • デジタルトランスフォーメーションのパフォーマンスを定期的に評価し、その結果をビジネスの結果と照らし合わせて、必要な調整を行います。

このフレームワークは、企業がDXの進行を計画的かつ全面的に管理し、その効果を最大限に引き出すための助けとなります。

フレームワーク5:Agile & Scrum

アジャイルとスクラムは、デジタルトランスフォーメーションの進行を支援するための人気のあるフレームワークです。これらの手法は、元々ソフトウェア開発の世界で広く用いられてきましたが、その柔軟性と反復的なアプローチがDXにも適しています。

アジャイルは、変更を受け入れ、反復的かつ進行的な改善を通じて価値を提供するという哲学に基づいています。この方法論は、企業が急速に変化するデジタル環境に適応し、顧客のニーズを最優先することを可能にします。

スクラムは、アジャイル開発の具体的なフレームワークであり、時間制限のある「スプリント」(通常は2-4週間)を通じてプロジェクトを管理します。スクラムチームは、各スプリントの開始時にどのタスクを達成するかを決定し、スプリントの終了時に成果物をレビューし、必要な改善点を議論します。

アジャイルとスクラムは、企業がDXプロジェクトをより効率的に管理し、実際の成果に基づいて戦略を素早く調整するのに役立ちます。この方法論は、不確実性が高く、急速に進化するデジタルビジネスの環境において、特に有用です。

フレームワーク6:テクノロジー受容モデル(TAM)

デジタルトランスフォーメーションは新たなテクノロジーの導入が不可欠ですが、その成功は従業員や顧客がそれをどのように受け入れ、使用するかに大きく依存します。テクノロジー受容モデル(TAM)は、新しいテクノロジーがどのように受け入れられ、利用されるかを理解するための有用なフレームワークです。

TAMは、特に「 perceived usefulness(知覚される有用性)」と「perceived ease of use(知覚される使いやすさ)」という二つの主要な要素に焦点を当てています。これらの要素が高ければ高いほど、人々は新しいテクノロジーを受け入れやすくなります。

  1. 知覚される有用性
    • 人々が新しいテクノロジーを使う意欲は、そのテクノロジーが自分の仕事をどれだけ助けるか、つまりその有用性に大きく依存します。企業は、新しいテクノロジーが従業員や顧客のタスクをどのように改善するかを明確に示すことが重要です。
  2. 知覚される使いやすさ
    • また、テクノロジーが簡単に使用できると認識される場合、人々はそれをより早く受け入れます。企業は新しいテクノロジーの導入時に、利用者がそれを学び、理解し、使いこなすためのサポートを提供する必要があります。

TAMは、企業が新しいデジタルテクノロジーを成功裏に導入するための洞察を提供します。特に、新しいテクノロジーを導入する際のユーザーの反応と行動を予測するのに役立ちます。

フレームワーク7:SWOT分析

SWOT分析は、企業が自身の状況を理解し、戦略を作成するためのシンプルで強力なツールです。このフレームワークは、Strengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)の4つの要素を分析します。

デジタルトランスフォーメーションの文脈では、SWOT分析は次のように利用できます。

  1. Strengths(強み)
    • 自社のデジタル能力の中で優れているものは何か。これには技術的スキル、デジタルインフラ、データ分析能力などが含まれます。
  2. Weaknesses(弱み)
    • デジタル領域で改善が必要な部分は何か。これには遅れている技術、スキル不足、データの利用不足などが含まれるかもしれません。
  3. Opportunities(機会)
    • デジタルトランスフォーメーションを通じてどのような新たな機会を探求できるか。新しい市場、顧客体験の向上、運用の効率化などが含まれます。
  4. Threats(脅威)
    • デジタルトランスフォーメーションの進行に何が妨げとなりうるか。これには競合他社の動向、技術の変化、セキュリティリスクなどが含まれるかもしれません。

SWOT分析は、企業がデジタルトランスフォーメーション戦略を計画し、実行する際に自身の位置を理解し、どの方向に進むべきかを明確にするのに役立ちます。

フレームワーク8:オーシャンズ・ストラテジーキャンバス

オーシャンズ・ストラテジーキャンバス(またはブルーオーシャン戦略キャンバス)は、競争力のある市場を視覚化し、新しい市場領域を見つけ出すためのフレームワークです。このツールは、企業がデジタルトランスフォーメーションを通じて新しいビジネスの機会を発見し、既存の競争を超越するのに役立ちます。

このフレームワークは、さまざまな競争要素(価格、品質、ブランド認知度など)に基づいて、企業や製品の競争力を視覚的に表現します。これにより、企業は既存の市場での自社の位置を明確にし、競争の激しい「赤い海」から新たな市場領域(ブルーオーシャン)へと移動する戦略を考えることができます。

デジタルトランスフォーメーションは、新しいビジネスモデルを探求し、新たな市場領域を開拓する大きな機会を提供します。オーシャンズ・ストラテジーキャンバスは、企業がこれらの新たな機会を視覚化し、戦略を計画するのに役立つツールです。

フレームワーク9:レーン・ピンバッハーのDXフレームワーク

デジタルトランスフォーメーションの戦略策定に特化したフレームワークとして、デジタルビジネスとITの専門家であるレーン・ピンバッハーが提唱するDXフレームワークがあります。

このフレームワークは、デジタルビジネス変革をリードするための6つの次元を提示しています。

  1. ビジネスモデルの再設計
    • デジタル化の可能性を最大限に活用する新しいビジネスモデルを考察する。
  2. 組織と文化の変革
    • デジタル思考を組織全体に浸透させ、柔軟で迅速な意思決定と実行を可能にする文化を育成する。
  3. 顧客エクスペリエンスの再構築
    • 顧客のニーズと期待に対応するための、デジタル化された顧客エクスペリエンスを提供する。
  4. オペレーションの変革
    • 効率化、自動化、そして情報共有を可能にする新しい運用モデルを実装する。
  5. デジタル技術の利用
    • ビジネスの目的を達成するための最新のデジタル技術を選択し、適用する。
  6. データとアナリティクスの活用
    • ビジネスインテリジェンスと意思決定のために、データとアナリティクスを戦略的に活用する。

これらの要素を総合的に取り組むことで、企業はデジタルトランスフォーメーションを戦略的に進め、ビジネスの競争力を強化することができます。

フレームワーク10:デザイン思考

デザイン思考は、問題解決のための人間中心のアプローチであり、デジタルトランスフォーメーション戦略を策定する際の重要なフレームワークです。これは、人々のニーズを理解し、創造的な解決策を開発し、その解決策を継続的に試行錯誤と改善を通じて実現するプロセスを強調します。

デザイン思考のプロセスは、通常次の5つのステップから構成されます。

  1. 共感(Empathize):顧客や利用者の視点を理解する。
  2. 定義(Define):問題を明確に定義する。
  3. 発想(Ideate):可能な解決策を幅広く考え出す。
  4. プロトタイプ(Prototype):解決策の実行可能性を確認するための初期モデルを作成する。
  5. テスト(Test):プロトタイプを実際に試し、フィードバックを得て改善を行う。

デザイン思考は、顧客のニーズを満たす新しいデジタル製品やサービスを開発するための協力なツールです。また、組織文化の変革を促し、イノベーションを推進する役割も果たします。デザイン思考をデジタルトランスフォーメーション戦略の一部として採用することで、企業は顧客中心の解決策を開発し、競争力を向上させることができます。

まとめ

デジタルトランスフォーメーションは、企業が新たな競争環境で生き残るための必要不可欠なプロセスです。しかし、その成功は綿密な計画と戦略的なアプローチに依存しています。ここで紹介した10のフレームワークは、そのようなアプローチを形成するのに役立つツールとなります。

それぞれのフレームワークが独自の強みを持っている一方で、最大の利益を得るためには、それらを組み合わせて使用することが重要です。たとえば、McKinsey 7S Frameworkは組織全体の視点からアプローチするための枠組みを提供し、一方でデザイン思考は顧客中心の解決策の開発を助けます。これらを組み合わせることで、より包括的かつ効果的なデジタルトランスフォーメーション戦略を策定することが可能になります。

デジタルトランスフォーメーションを成功させるためには、これらのフレームワークを理解し、自社のビジネス目標と状況に最も適したものを選択し、実装することが求められます。そして何よりも、デジタルトランスフォーメーションは一度きりのイベントではなく、絶えず進化するデジタル環境に対応するための持続的なプロセスであるという意識を持つことが必要です。

参考文献

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    →フレームワーク9:レーン・ピンバッハーのDXフレームワーク
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    →フレームワーク10:デザイン思考