近年、あらゆる産業において、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が急務となっています。IoT、AI、ビッグデータなどのデジタル技術の急速な発展、消費者の行動様式の変化、そしてグローバルな競争の激化など、企業を取り巻くビジネス環境はかつてないスピードで変化しています。このような変化の激しい時代において、企業が競争優位性を確立し、持続的に成長していくためには、デジタル技術を活用して、ビジネスモデルや業務プロセス、組織文化を変革していくDXの推進が不可欠です。
そして、このDXを推進する上で、重要な鍵を握るのが「クラウドネイティブ化」です。クラウドネイティブとは、クラウドのメリットを最大限に活用するために、アプリケーションの開発、運用、管理を最適化するアプローチやそのための技術を指します。
従来のオンプレミス型のシステム開発・運用から、クラウドネイティブなアプローチに移行することで、企業は、変化への迅速な対応力(アジリティ)、需要変動に応じた柔軟な拡張性(スケーラビリティ)、運用効率の向上、コスト削減、そしてイノベーションの加速を実現できます。これらは、まさにDXが目指すところであり、クラウドネイティブ化はDXを成功に導くための強力な推進力となるのです。
しかし、「クラウドネイティブ」という言葉は聞いたことがあっても、その具体的な内容やメリット・デメリット、自社にとってどのような効果があるのかなど、詳しく理解している方はまだ多くないかもしれません。また、クラウドネイティブ化を進める上での課題や、どのように進めれば良いかについて、悩みを抱えている企業も多いでしょう。
本記事では、「クラウドネイティブ化」をテーマに、その定義や主要な構成要素から、メリット・デメリット、成功事例、そして具体的な進め方まで、包括的に解説していきます。クラウドネイティブ化の全体像を理解し、自社のDX推進にどのように活かせるのか、そのヒントを得ていただければ幸いです。
「クラウドネイティブ」という言葉は、近年IT業界で頻繁に使われるようになりましたが、その定義は曖昧で、人によって解釈が異なる場合もあります。ここでは、クラウドネイティブの一般的な定義と、それを構成する主要な要素について解説します。
クラウドネイティブに関する標準化団体であるCloud Native Computing Foundation(CNCF)は、クラウドネイティブを以下のように定義しています。
クラウドネイティブ技術は、パブリッククラウド、プライベートクラウド、ハイブリッドクラウドなどの近代的でダイナミックな環境において、スケーラブルなアプリケーションを構築および実行するための能力を組織にもたらします。このアプローチの代表例に、コンテナ、サービスメッシュ、マイクロサービス、イミュータブルインフラストラクチャ、および宣言型APIがあります。
これらの技術により、回復性、管理力、および可観測性のある疎結合システムが実現します。これらを堅牢な自動化と組み合わせることで、エンジニアはインパクトのある変更を最小限の労力で頻繁かつ予測どおりに行うことができます。
(日本語訳は筆者による)
少し堅苦しい表現ですが、要約すると、クラウドネイティブとは、クラウドのメリットを最大限に活用するために、最初からクラウド上で動作することを前提として、アプリケーションやシステムを開発・運用するアプローチのことです。そして、そのアプローチを支える様々な技術要素を総称して「クラウドネイティブ技術」と呼びます。
クラウドネイティブを実現するためには、以下のような技術要素が重要な役割を果たします。
マイクロサービス: アプリケーションを独立した小さなサービスに分割して開発・運用するアーキテクチャスタイル。各サービスは特定のビジネス機能を担当し、独立してデプロイやスケーリングが可能です。
メリット:開発の迅速化、スケーラビリティの向上、障害の影響範囲の局所化など
コンテナ: アプリケーションとその実行環境をパッケージ化し、移植性と一貫性を実現する技術。代表的なコンテナ技術としてDockerがあります。
メリット:環境差異の吸収、デプロイの迅速化、リソースの効率的利用など
CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー): ソフトウェア開発におけるビルド、テスト、デプロイなどのプロセスを自動化し、迅速かつ頻繁にリリースを行う手法。
メリット:リリースサイクルの短縮、品質の向上、人的ミスの削減など
DevOps: 開発(Development)チームと運用(Operations)チームが連携・協力し、ソフトウェア開発のライフサイクル全体を効率化する文化・プラクティス。
メリット:開発と運用の連携強化、迅速なフィードバックループ、問題の早期発見など
オーケストレーション(Kubernetesなど): 多数のコンテナを効率的に管理・運用するためのプラットフォーム。代表的なツールとしてKubernetesがあります。
メリット:コンテナの自動デプロイ、スケーリング、ロードバランシング、障害対応など
サービスメッシュ: マイクロサービス間の通信を制御・管理し、可観測性、セキュリティ、トラフィック管理などを実現する技術。
メリット:サービス間通信の可視化、セキュリティの強化、トラフィックの制御など
サーバーレス: サーバーの管理をクラウドプロバイダーに任せ、開発者はコードの記述に専念できるコンピューティングモデル。
メリット:サーバー管理の負荷軽減、スケーラビリティの向上、コストの最適化など
これらの技術要素は、相互に関連し合いながら、クラウドネイティブなアプリケーションの構築と運用を支えています。
「クラウドネイティブ化」と「クラウド移行」は混同されがちですが、異なる概念です。
クラウド移行: 既存のオンプレミス環境で稼働しているアプリケーションやシステムを、そのまま、または最小限の変更でクラウド環境に移行すること(リフト&シフト)。
目的:主にインフラのコスト削減や運用負荷軽減
クラウドネイティブ化: クラウドのメリットを最大限に活用するために、アプリケーションやシステムをクラウドネイティブなアーキテクチャで開発・運用すること。
目的:ビジネスの俊敏性向上、イノベーションの加速、スケーラビリティや可用性の向上など
つまり、クラウド移行は「クラウドを使う」ことが主眼であるのに対し、クラウドネイティブ化は「クラウドを前提として、アプリケーションやシステムのあり方を変革する」ことが主眼となります。
前章では、クラウドネイティブの定義と主要な構成要素について解説しました。では、企業がクラウドネイティブ化に取り組むことで、具体的にどのようなメリットが得られるのでしょうか。ここでは、クラウドネイティブ化が企業にもたらす主要なメリットを、6つの観点から詳しく見ていきましょう。
クラウドネイティブなアーキテクチャ、特にマイクロサービスとCI/CDの組み合わせは、ソフトウェア開発のスピードを飛躍的に向上させます。
マイクロサービスにより、アプリケーションは独立した小さなサービスに分割されるため、各サービスの開発チームは迅速かつ自律的に開発を進めることができます。
CI/CDにより、ビルド、テスト、デプロイなどのプロセスが自動化されるため、開発した機能を迅速かつ頻繁にリリースすることができます。
この迅速な開発・リリースサイクルにより、市場の変化や顧客のニーズに素早く対応し、競合他社に先駆けて新サービスを市場に投入することが可能になります。
クラウドネイティブなアプリケーションは、クラウドの持つスケーラビリティと柔軟性を最大限に活用することができます。
コンテナオーケストレーションツール(Kubernetesなど)により、アプリケーションの需要に応じて、自動的にリソースをスケールアップ/ダウンすることができます。
サーバーレスアーキテクチャを採用すれば、サーバー管理が不要になり、アプリケーションの実行に必要なリソースを必要な時に必要なだけ利用できます。
これにより、急激なアクセス増加にも柔軟に対応でき、ビジネス機会の損失を防ぐことができます。また、需要が少ない時にはリソースを縮小することで、コストの最適化にもつながります。
クラウドネイティブ化は、運用効率の向上とコスト削減にも大きく貢献します。
DevOpsの文化やプラクティスにより、開発チームと運用チームの連携が強化され、運用プロセスが効率化されます。
インフラの自動化により、手作業による運用作業が削減され、人的ミスも減少します。
クラウドプロバイダーが提供するマネージドサービスを活用することで、サーバーやデータベースなどの運用管理の負荷を軽減できます。
リソースの最適利用により、無駄なリソース消費を抑え、クラウド利用料を削減できます。
これらの効果により、運用コストを大幅に削減し、IT部門はより戦略的な業務に注力できるようになります。
クラウドネイティブなアーキテクチャは、システムの可用性と信頼性を向上させます。
マイクロサービスにより、アプリケーションが独立したサービスに分割されているため、あるサービスに障害が発生しても、他のサービスへの影響を最小限に抑えることができます。
コンテナオーケストレーションツールにより、障害が発生したコンテナを自動的に再起動したり、別のノードで再作成したりすることができます。
クラウドプロバイダーが提供する高可用性構成を利用することで、リージョンやアベイラビリティゾーンをまたいだ冗長構成を組むことができます。
これにより、システム全体のダウンタイムを最小限に抑え、ビジネスへの影響を軽減することができます。
クラウドネイティブ化は、企業のイノベーションを加速させる原動力となります。
迅速な開発・リリースサイクルにより、新しいアイデアを素早く形にし、市場に投入して反応を見ることができます。
**クラウドプロバイダーが提供する最新技術(AI、機械学習、ビッグデータ分析など)**を容易に活用することができます。
マイクロサービスアーキテクチャにより、個々のサービスを独立して開発・改良できるため、実験的な取り組みを行いやすくなります。
これらの効果により、企業はイノベーションを迅速に推進し、競争優位性を確立することができます。
クラウドネイティブ化は、開発者の生産性や満足度を高め、開発者体験(Developer Experience)を向上させます。
マイクロサービスとCI/CDにより、開発者は自分の担当するサービスに集中して、迅速かつ自律的に開発を進めることができます。
コンテナ技術により、開発環境と本番環境の差異をなくし、環境構築の手間を削減できます。
サーバーレスやマネージドサービスの活用により、インフラ管理の負担から解放され、コードの記述に専念できます。
開発者体験の向上は、開発者のモチベーションや定着率を高め、優秀な人材の確保にもつながります。
前章では、クラウドネイティブ化のメリットについて詳しく解説しました。しかし、クラウドネイティブ化はメリットばかりではなく、デメリットや課題も存在します。ここでは、クラウドネイティブ化を推進する上で、注意すべき点について見ていきましょう。
クラウドネイティブ化には、初期の導入コストや、継続的な運用コストがかかります。
初期投資: クラウドネイティブに対応した人材の採用・育成、アプリケーションの再設計・開発、新しいツールやサービスの導入などに、初期投資が必要です。
ランニングコスト: クラウドサービスの利用料、コンテナオーケストレーションツールの運用コスト、モニタリングツールの利用料など、継続的なコストが発生します。特に、クラウドサービスの利用料は、従量課金制であることが多く、使い方によっては想定以上のコストがかかる可能性があるため、注意が必要です。
クラウドネイティブ環境では、新たなセキュリティリスクへの対策が必要です。
コンテナ固有のセキュリティリスク: コンテナイメージの脆弱性、コンテナ間通信のセキュリティ、特権コンテナの悪用など、コンテナに起因するセキュリティリスクが存在します。
クラウド環境のセキュリティ設定ミス: クラウドサービスの設定ミスにより、情報漏洩などのセキュリティインシデントが発生する可能性があります。
サプライチェーン攻撃: サードパーティのライブラリやツールに含まれる脆弱性を悪用した攻撃のリスクが高まります。
これらのリスクに対処するためには、セキュリティ対策を開発プロセスに組み込む「DevSecOps」の実践や、適切なセキュリティツールの導入、継続的な脆弱性診断などが重要です。
クラウドネイティブ化には、高度な技術的知識とスキルが求められます。
マイクロサービス、コンテナ、Kubernetes、サービスメッシュ、サーバーレスなど、様々な技術要素を理解し、適切に使いこなす必要があります。
分散システムの設計・運用には、特有の難しさがあります。例えば、サービス間の依存関係の管理、障害発生時の切り分け、パフォーマンスの最適化など、考慮すべき点が多岐にわたります。
このような技術的複雑さに対処するためには、クラウドネイティブに精通した人材の採用・育成や、外部の専門家の活用などが必要です。
多くの企業では、既にオンプレミス環境で稼働している既存システム(レガシーシステム)が存在します。クラウドネイティブ化を進める際には、これらの既存システムとの連携を考慮する必要があります。
データ連携: クラウド上のアプリケーションとオンプレミスのデータベースとの間で、データをどのように連携するかを検討する必要があります。
API連携: 既存システムが提供するAPIを利用して、クラウドネイティブなアプリケーションから機能を呼び出せるようにする必要があります。
ハイブリッドクラウド構成: オンプレミスとクラウドを組み合わせたハイブリッドクラウド構成を採用する場合、ネットワークの設計やセキュリティ対策などに注意が必要です。
クラウドネイティブ化を進める際には、特定のクラウドプロバイダーやツールへの依存度が高まり、ベンダーロックインのリスクが生じる可能性があります。
クラウドプロバイダーへの依存: 特定のクラウドプロバイダーに依存しすぎると、他のクラウドプロバイダーへの移行が困難になったり、価格交渉力が低下したりするリスクがあります。
特定ツールへの依存: 特定のコンテナオーケストレーションツールやサービスメッシュに依存しすぎると、他のツールへの移行が困難になる場合があります。
ベンダーロックインを回避するためには、マルチクラウド戦略を採用したり、オープンソースの技術を活用したりするなどの対策が有効です。
クラウドネイティブ化を成功させるためには、技術的な側面だけでなく、組織の文化や働き方を変革していくことも重要です。
DevOps文化の醸成: 開発チームと運用チームが連携・協力し、迅速かつ継続的に価値を提供していくDevOpsの文化を組織に浸透させる必要があります。
アジャイルな働き方への転換: 変化に迅速に対応できる、アジャイルな働き方を取り入れる必要があります。
自律的なチームの構築: 各チームが自律的に意思決定し、行動できるような組織体制を構築する必要があります。
これらの変革は一朝一夕には実現できません。経営層のリーダーシップの下、時間をかけて組織全体に変革を促していくことが重要です。
前章では、クラウドネイティブ化のデメリットや課題について解説しました。しかし、それらの課題を乗り越え、クラウドネイティブ化によって大きな成果を上げている企業も数多く存在します。ここでは、様々な業界におけるクラウドネイティブ化の成功事例を紹介し、どのように活用されているのかを見ていきましょう。
ある大手製造業A社では、工場の生産ラインに多数のセンサーを設置し、IoT(Internet of Things)を活用した予知保全システムの構築に、クラウドネイティブ技術を活用しました。
課題: 従来の設備保全は、定期的な点検や事後保全が中心であり、突発的な設備故障による生産停止や、過剰な保全コストが課題となっていました。
取り組み:
各種センサーから収集したデータを、クラウド上のデータ基盤に集約
データ分析基盤で、収集したデータから故障の予兆を検知
コンテナとKubernetesを活用し、データ分析アプリケーションを迅速に開発・デプロイ
サーバーレスアーキテクチャを採用し、データ量に応じたスケーラビリティを確保
CI/CDパイプラインを構築し、継続的な機能改善を実現
効果:
設備の故障予兆を事前に検知し、計画的な保全が可能に
突発的な設備停止による生産損失を削減
保全業務の効率化により、メンテナンスコストを削減
大手金融機関B社では、レガシーなモノリシックシステムを刷新し、マイクロサービスアーキテクチャを採用したクラウドネイティブなシステムを構築しました。
課題: 従来のシステムは、機能追加や変更に時間とコストがかかり、ビジネスの変化に迅速に対応できないことが課題でした。
取り組み:
既存のシステムをマイクロサービスに分割し、独立したサービスとして開発・運用
各サービスをコンテナ化し、Kubernetesで管理
DevOpsのプラクティスを導入し、開発チームと運用チームが密に連携
CI/CDパイプラインを構築し、サービス開発の迅速化を実現
効果:
新サービスの開発期間を大幅に短縮
顧客ニーズに合わせた機能改善を迅速に実施
システムの可用性とスケーラビリティが向上
大手小売業C社では、ECサイトの基盤にコンテナ技術を活用し、クラウドネイティブ化を実現しました。
課題: セールやキャンペーン時にアクセスが集中し、ECサイトのパフォーマンスが低下することが課題でした。
取り組み:
ECサイトのアプリケーションをコンテナ化
Kubernetesを導入し、負荷状況に応じてコンテナ数を自動的にスケーリング
サービスメッシュを導入し、サービス間のトラフィックを制御
効果:
アクセス集中時にも安定したパフォーマンスを維持
サーバーリソースの効率的な利用により、コストを削減
迅速なスケールアップ/ダウンが可能になり、ビジネス機会の損失を防止
IT企業D社では、自社のサービス開発・運用プロセスにCI/CDパイプラインを導入し、クラウドネイティブ化を推進しました。
課題: 開発したサービスのリリースまでに時間がかかり、市場投入のタイミングを逃すことが課題でした。また、開発環境と本番環境の差異によるトラブルも発生していました。
取り組み:
CI/CDパイプラインを構築し、ビルド、テスト、デプロイを自動化
コンテナ技術を活用し、開発環境と本番環境の差異を解消
**Infrastructure as Code(IaC)**を導入し、インフラ構成をコードで管理
効果:
サービスリリースまでの時間を大幅に短縮
開発環境と本番環境の差異によるトラブルを削減
開発者の生産性が向上し、より多くの時間を新機能の開発に充てられるように
スタートアップE社では、新規サービスの開発にサーバーレスアーキテクチャを採用し、クラウドネイティブ化を実現しました。
課題: サービス開始当初はユーザー数が少ないため、サーバーの維持・管理コストを抑えたい。一方で、将来的なユーザー数の増加にも対応できるスケーラビリティを確保したい。
取り組み:
AWS Lambdaなどのサーバーレスコンピューティングサービスを活用
API Gateway、DynamoDBなどのマネージドサービスを組み合わせてアプリケーションを構築
IaCによりインフラ環境をコードで管理し、環境構築を自動化
効果:
サーバーの運用管理が不要になり、開発者はアプリケーション開発に専念
サービス利用状況に応じたスケーラビリティを、低コストで実現
迅速なサービス開発により、ビジネスアイデアを素早く形に
これらの事例から、クラウドネイティブ化は、業種や企業規模を問わず、様々な企業にメリットをもたらすことがわかります。
前章では、クラウドネイティブ化の成功事例を紹介しました。ここでは、自社でクラウドネイティブ化を進めるにはどうすれば良いのか、その具体的なステップを解説します。
まずは、自社の現状を分析し、クラウドネイティブ化の目標を設定します。
ビジネス目標の確認: クラウドネイティブ化によって、どのようなビジネス目標を達成したいのかを明確にします。(例:市場投入までの時間短縮、コスト削減、イノベーションの加速など)
IT環境のアセスメント: 現在のアプリケーション、インフラ、開発・運用プロセス、組織体制などを調査し、クラウドネイティブ化の阻害要因や課題を洗い出します。(例:モノリシックなアプリケーション、属人的な運用、技術的負債など)
ギャップ分析: ビジネス目標と現状とのギャップを分析し、クラウドネイティブ化によって解決すべき課題を特定します。
目標設定: クラウドネイティブ化によって達成したい具体的な目標を設定します。SMART(Specific:具体的、Measurable:測定可能、Achievable:達成可能、Relevant:関連性がある、Time-bound:期限が明確)な目標を設定することが重要です。
現状分析と目標設定を踏まえ、クラウドネイティブ化を実現するための戦略を策定します。
クラウドネイティブ化のビジョン: クラウドネイティブ化によって、どのような状態を目指すのか、将来像を描きます。
ロードマップ: 目標達成に向けた道筋を、短期・中期・長期のマイルストーンとともに示します。
移行計画: 既存アプリケーションの移行計画を策定します。クラウドネイティブ化に適したアプリケーションを選定し、リフト&シフト、リファクタリング、リプレイスなどの移行アプローチを検討します。
技術選定: 採用するクラウドプロバイダー、コンテナオーケストレーションツール、CI/CDツールなどを選定します。
ガバナンス: クラウドネイティブ環境のガバナンス(統制)ルールを策定します。(例:セキュリティポリシー、運用ルール、コスト管理ルールなど)
クラウド戦略に基づいて、クラウドネイティブ化に必要な技術やサービスを選定します。
クラウドプロバイダー: AWS、Azure、Google Cloudなどの主要なクラウドプロバイダーから、自社の要件に合ったものを選定します。マルチクラウドやハイブリッドクラウドの構成を採用する場合には、それぞれのクラウドプロバイダーの特性を考慮する必要があります。
コンテナオーケストレーション: Kubernetesをはじめとするコンテナオーケストレーションツールを選定します。
CI/CDツール: Jenkins、GitLab CI、CircleCIなどのCI/CDツールを選定します。
サービスメッシュ: Istio、Linkerdなどのサービスメッシュを選定します。
サーバーレスプラットフォーム: AWS Lambda、Azure Functions、Google Cloud Functionsなどのサーバーレスプラットフォームを選定します。
監視・ログ管理ツール: Prometheus、Grafana、Elasticsearch、Kibanaなどの監視・ログ管理ツールを選定します。
いきなり全社的にクラウドネイティブ化を進めるのではなく、まずは小規模なパイロットプロジェクトから始めることをお勧めします。
対象アプリケーションの選定: クラウドネイティブ化の効果を検証しやすいアプリケーションを選定します。(例:新規開発するアプリケーション、変更頻度の高いアプリケーションなど)
チーム編成: クラウドネイティブに精通したメンバーを集め、専任チームを編成します。
実施計画の策定: パイロットプロジェクトの目標、スコープ、スケジュール、評価指標などを定めます。
効果検証: パイロットプロジェクトの実施結果を評価し、得られた知見や課題を今後の展開に活かします。
クラウドネイティブなアプリケーションを設計・開発し、既存アプリケーションを移行します。
マイクロサービスアーキテクチャの採用: アプリケーションを独立した小さなサービスに分割して設計します。
コンテナ化: アプリケーションをコンテナ化し、可搬性と一貫性を確保します。
API設計: サービス間のインターフェースとなるAPIを設計します。
リフト&シフト: 既存アプリケーションをそのまま、または最小限の変更でクラウド環境に移行します。
リファクタリング: 既存アプリケーションをクラウドネイティブなアーキテクチャに適合するように、部分的に再設計・再開発します。
リプレイス: 既存アプリケーションを廃棄し、クラウドネイティブなアーキテクチャで新たに開発します。
クラウドネイティブ環境を安定的に運用するための体制を構築します。
DevOpsチームの組成: 開発チームと運用チームが連携・協力するDevOpsチームを組成します。
CI/CDパイプラインの構築: ビルド、テスト、デプロイなどのプロセスを自動化するCI/CDパイプラインを構築します。
監視・ログ管理: アプリケーションやインフラの稼働状況を監視し、ログを収集・分析するための仕組みを構築します。
自動化: 障害対応、スケーリング、バックアップなどの運用作業を自動化します。
セキュリティ対策: クラウドネイティブ環境のセキュリティ対策を実施します。(例:脆弱性診断、アクセス制御、暗号化など)
クラウドネイティブ化は一度実施したら終わりではなく、継続的に改善していくことが重要です。
フィードバックループ: 開発、運用、ビジネス部門などからフィードバックを収集し、改善に活かします。
アジャイルな改善: 小さな改善を繰り返しながら、継続的にシステムを進化させていきます。
技術のキャッチアップ: クラウドネイティブ関連の新しい技術やサービスを継続的にキャッチアップし、必要に応じて取り入れていきます。
本記事では、「クラウドネイティブ化」をテーマに、その定義や主要な構成要素から、メリット・デメリット、成功事例、そして具体的な進め方まで、包括的に解説してきました。
クラウドネイティブ化は、現代のビジネス環境において、企業のDXを推進し、競争力を強化するための重要な鍵となります。クラウドネイティブなアプローチを採用することで、企業は以下のようなメリットを得られます。
迅速なサービス開発とリリース
スケーラビリティと柔軟性の向上
運用効率の向上とコスト削減
可用性と信頼性の向上
イノベーションの加速
開発者体験の向上
これらのメリットは、ビジネスの俊敏性向上、顧客満足度の向上、収益拡大など、企業の成長に直結します。
しかし、クラウドネイティブ化には、導入・運用コスト、セキュリティリスク、技術的複雑さ、既存システムとの連携、ベンダーロックイン、組織文化の変革などの課題も存在します。これらの課題に対処するためには、クラウドネイティブ化の目的を明確にし、適切な技術・サービスを選定し、社内ドキュメントを整備し、運用体制を構築し、そして何より、従業員への説明とトレーニングを通じて変革への理解と協力を得ることが重要です。
そして、クラウドネイティブ化を成功に導くためには、以下のようなステップで計画的に進めることが大切です。
現状分析と目標設定
クラウド戦略の策定
適切な技術・サービスの選定
パイロットプロジェクトの実施
アプリケーションの設計・開発・移行
運用体制の構築
継続的な改善
クラウドネイティブ化は一朝一夕に実現できるものではありません。しかし、本記事で紹介したポイントを参考に、一歩ずつ着実に進めていけば、必ずやクラウドネイティブ化のメリットを享受し、DXを加速させ、企業の競争力を強化することができるはずです。